MOSFETスイッチング波形解析・スナバ設計・EMI理論

(実測波形からの逆算とフライバックRCD設計)


0. 本記事の目的

本記事では以下を 理論ベースかつ実務で再現可能な形で整理する。

  1. MOSFETスイッチング波形(Vdsリンギング)から
    寄生インダクタンス L と寄生容量 C を逆算する方法
  2. フライバック電源における
    RCDスナバ(クランプ)の設計理論と初期値算出
  3. スナバ回路が
    EMI(伝導・放射)にどう効くかの周波数領域での理論解析

1. MOSFETスイッチング波形から L と C を逆算する

1.1 観測している「共振系」を定義する

MOSFETのドレイン電圧 (V_{ds}) に現れるリンギングは、主に以下の等価回路で説明できる。

これらが LC共振回路を形成する。


1.2 リンギング周波数から LC の積を求める

リンギング周波数 (f_r) をオシロスコープで測定すると、

[ \omega_r = 2\pi f_r ]

[ \omega_r \approx \frac{1}{\sqrt{LC}} ]

したがって、

[ LC \approx \frac{1}{\omega_r^2} ]

ここで得られるのは LとCの積のみであり、分離には追加情報が必要。


1.3 既知容量を追加して L と C を分離する(最重要)

方法概要

リンギングノードに 既知の微小容量 (\Delta C) を追加し、 周波数変化から元の C を逆算する。

周波数変化

モデル:

[ f = \frac{1}{2\pi\sqrt{L(C+\Delta C)}} ]

よって、

[ \left(\frac{f_1}{f_2}\right)^2 = \frac{C+\Delta C}{C} = 1 + \frac{\Delta C}{C} ]

元の寄生容量 C

[ C = \frac{\Delta C}{\left(\frac{f_1}{f_2}\right)^2 - 1} ]

寄生インダクタンス L

[ L = \frac{1}{(2\pi f_1)^2 C} ]

実務上の注意


1.4 減衰包絡線からの補助的推定(参考)

リンギングの包絡線が指数減衰している場合:

[ v(t) \propto e^{-\alpha t}\cos(\omega_d t) ]

隣接ピーク振幅 (A_n, A_{n+1}) より:

[ \delta = \ln\left(\frac{A_n}{A_{n+1}}\right) ]

周期 (T = 1/f_r) とすると:

[ \alpha \approx \frac{\delta}{T} ]

直列RLC近似では:

[ \alpha \approx \frac{R}{2L} ]

※ 実回路では損失要素が多いため 補助的な目安とする。


2. フライバック電源の RCD スナバ設計

2.1 RCDが処理しているエネルギー

フライバックでは、MOSFETオフ時に
一次側漏れインダクタンス (L_{lk}) に蓄積されたエネルギーが問題になる。

[ E_{lk} = \frac{1}{2} L_{lk} I_{pk}^2 ]

このエネルギーを Cで受け、Rで熱として消費するのがRCDスナバ。


2.2 MOSFET耐圧とクランプ電圧

MOSFETオフ時の基本電圧:

[ V_{ds,base} \approx V_{in,max} + V_{ref} ]

[ V_{ref} = \frac{N_p}{N_s}(V_o + V_d) ]

クランプ後の最大電圧:

[ V_{ds,max} \approx V_{in,max} + V_{ref} + V_{clamp} ]

設計指針:


2.3 クランプコンデンサ C の設計

1周期でのクランプ電圧リップルを (\Delta V) とすると:

[ E_{lk} \approx \frac{1}{2} C \left( (V_{clamp}+\Delta V)^2 - V_{clamp}^2 \right) ]

(\Delta V \ll V_{clamp}) の近似より:

[ E_{lk} \approx C V_{clamp} \Delta V ]

[ C \approx \frac{\frac{1}{2} L_{lk} I_{pk}^2} {V_{clamp} \Delta V} ]

実務では:

[ \Delta V \approx (0.05 \sim 0.2)\,V_{clamp} ]

とすることが多い。


2.4 クランプ抵抗 R の設計

平均的に抵抗が消費する電力:

[ P_R \approx E_{lk} f_{sw} ]

一方、抵抗の消費電力は:

[ P_R \approx \frac{V_{clamp}^2}{R} ]

よって、

[ R \approx \frac{V_{clamp}^2}{E_{lk} f_{sw}} ]

※ 実波形では近似だが、初期値として有効


2.5 波形ベースの調整指針


3. スナバと EMI の理論的関係

3.1 EMIを決める主要因

高周波ノイズは主に以下で決まる:


3.2 立ち上がり時間と周波数成分

立ち上がり時間 (t_r) を持つ波形のスペクトルは、

[ f \gtrsim \frac{0.35}{t_r} ]

付近から急激に減衰する。

スナバで (t_r) を長くすると高周波成分が減る


3.3 リンギングとスペクトルピーク

LC共振はスペクトル上で:

RCスナバのRは:


3.4 伝導EMIと放射EMIへの効き方


4. 実務フローまとめ

  1. Vdsリンギング周波数 (f_r) を測定
  2. 既知 (\Delta C) を追加し (L, C) を逆算
  3. RCスナバ初期値: [ R \approx 2\sqrt{\frac{L}{C}} ]
  4. フライバックでは別途 RCD を設計
  5. 波形・EMI測定で追い込み

5. 結論

スナバ設計は:

寄生LCの 共振周波数・Q・エネルギー
意図的に制御するアナログ設計問題

であり、
測定 → 逆算 → 設計 → 再測定 のループが本質である。