MOSFET における gm の電流依存性

― 弱反転・中反転・強反転の連続的理解 ―

本記事では、MOSFET の小信号トランスコンダクタンス ( g_m ) が
ドレイン電流 ( I_D ) に対してどのように依存するかを、

という流れで整理する。

アナログ回路設計、とくにトランジスタレベル設計を前提とする。


1. gm の定義(共通出発点)

MOSFET のトランスコンダクタンスは

[ g_m \equiv \frac{\partial I_D}{\partial V_{GS}} \quad (V_{DS}\ \text{一定}) ]

で定義される。

したがって、( I_D(V_{GS}) ) のモデルが変われば
( g_m ) の電流依存性も変わる


2. 弱反転(Subthreshold)領域

2.1 電流モデル

弱反転ではチャネルは形成されず、電流は拡散支配となる。

ドレイン電流は近似的に

[ I_D = I_0 \exp\left(\frac{V_{GS}-V_{TH}}{nV_T}\right) ]

と書ける。


2.2 gm の導出

[ g_m = \frac{\partial I_D}{\partial V_{GS}} ]

指数関数を微分すると

[ g_m = I_D \cdot \frac{1}{nV_T} ]

すなわち

[ \boxed{g_m = \frac{I_D}{nV_T}} ]


2.3 特徴(重要)

この性質から、低消費電力アナログ回路で弱反転動作が選ばれることがある。


3. 強反転(Strong Inversion)領域

3.1 電流モデル(長チャネル近似)

強反転・飽和領域では、いわゆる平方則が成り立つと仮定すると

[ I_D = \frac{1}{2}\mu C_{ox}\frac{W}{L}(V_{GS}-V_{TH})^2 ]

ここで

[ \beta \equiv \mu C_{ox}\frac{W}{L}, \quad V_{ov} \equiv V_{GS}-V_{TH} ]

とおくと

[ I_D = \frac{1}{2}\beta V_{ov}^2 ]


3.2 gm の導出

[ g_m = \frac{\partial I_D}{\partial V_{GS}} = \frac{\partial I_D}{\partial V_{ov}} ]

[ g_m = \beta V_{ov} ]

平方則から

[ V_{ov} = \sqrt{\frac{2I_D}{\beta}} ]

を代入すると

[ \boxed{g_m = \sqrt{2\beta I_D}} ]


3.3 特徴

※短チャネルでは速度飽和などにより指数は変化しうるため、 ここでは長チャネル近似の結果である点に注意する。


4. gm / ID 設計という統一的視点

4.1 弱反転

[ \frac{g_m}{I_D} = \frac{1}{nV_T} \quad (\text{定数}) ]

4.2 強反転

[ \frac{g_m}{I_D} = \frac{2}{V_{ov}} ]

→ オーバードライブ電圧に依存。


4.3 中反転(Moderate Inversion)

実際の回路設計では、多くのトランジスタは

という 中反転領域で使われる。

この領域では

と考えられる。


5. 設計的まとめ

領域 ( g_m ) の依存 特徴
弱反転 ( g_m \propto I_D ) 高効率・低電力
中反転 連続遷移 実用設計の主戦場
強反転 ( g_m \propto \sqrt{I_D} ) 高速・大信号

6. 重要な注意点


おわりに

「( g_m ) は電流を増やせば増える」という単純な理解ではなく、

増えているのかを意識することが、
トランジスタレベルのアナログ設計では重要である。