続き②:なぜ ( W / L ) を増やすと逆に帯域・安定性が悪化するのか(実務の核心)

前半で整理した通り,バイアス電流 ( I_D ) 一定の条件では

\[g_m \propto \sqrt{\frac{W}{L}}\]

一方で寄生容量は

\[C \propto W\]

とスケールする。

ここで重要なのは 増え方の非対称性 である。


( g_m ) を上げたいという意図と実際

設計者の意図は多くの場合,

( g_m ) を上げて利得・GBW・速度を改善したい

である。

しかし実際には,

結果として,

\[\frac{g_m}{C} \downarrow\]

となる場合すらある。

これはつまり,

という直感に反する挙動を生む。


GBW を支配する本質量

ミラー補償された 1 極支配系では,

\[\mathrm{GBW} \approx \frac{g_m}{2\pi C}\]

であった。

ここでの実務的解釈は,

である。

( W ) を増やす行為は,

筋力を少し増やす代わりに,
もっと重い荷物を背負わせる

のと同じである。


続き③:第2極が「勝手に」下がってくる理由

ここが設計が壊れる最大のポイントである。


第2極の位置はどこで決まるか

第2極は多くの場合,

に存在する。

近似的には,

\[f_{p2} \approx \frac{1}{2\pi R_2 C_2}\]

で決まる。


( W ) を増やしたときに起きること

第2段トランジスタの ( W ) を増やすと,

結果として,

\[C_2 \uparrow \quad \Rightarrow \quad f_{p2} \downarrow\]

となる。

つまり,

設計者が触っていないつもりの第2極が,
ユニティゲイン周波数に近づいてくる


なぜこれが危険か

ユニティゲイン周波数付近で,

が効くと,

\[\angle A(j\omega_u) \approx -180^\circ\]

となり,負帰還は正帰還に転じる。

結果:


続き④:ミラー補償が生む RHP ゼロの正体

ミラー補償容量 ( C_c ) により現れる零点は,

\[\omega_z \approx \frac{g_{m2}}{C_c}\]

で与えられる。


なぜ右半平面零点になるのか

第2段が共通ソース構成の場合,

その結果,

という不利な特性になる。


実務でよくある事故

これは多くの場合,

RHP ゼロがユニティゲイン近辺に来ている

状態である。


続き⑤:実務設計者が取る対処(経験則)

① 第2段の ( g_{m2} ) を上げすぎない

第2段の役割は,

であり,GBW を決める主役ではない。

\[g_{m2} \uparrow \Rightarrow \omega_z \uparrow\]

ではあるが,

の副作用が大きい。


② 零点キャンセル抵抗を使う

補償容量に直列抵抗 ( R_z ) を入れることで,

\[\omega_z \approx \frac{1}{R_z C_c}\]

の LHP ゼロを作り,RHP ゼロを相殺する。


③ 支配極と第2極の「距離」を最優先する

経験的な安全条件:

\[f_{p2} \ge 3 \sim 5 \times f_u\]

これは性能ではなく 安定性マージンの条件 である。


まとめ