バイポーラトランジスタ(BJT)とMOSトランジスタの比較

― アナログ回路設計視点 ―

1. 概要

BJTとMOSトランジスタは、増幅素子として共通の役割を持つが、
電流生成機構・小信号特性・設計パラメータの支配因子が本質的に異なる。

本稿ではアナログ設計に直接効く式のみを整理する。


2. BJTの本質

2.1 指数則

BJTのコレクタ電流は

\[I_C = I_S \left( \exp\left(\frac{V_{BE}}{V_T}\right) - 1 \right)\]

通常の能動領域では ( V_{BE} \gg V_T ) のため

\[I_C \approx I_S \exp\left(\frac{V_{BE}}{V_T}\right)\]

ここで

\[V_T = \frac{kT}{q}\]

室温では

\[V_T \approx 26 \text{ mV}\]

2.2 相互コンダクタンス

BJTの相互コンダクタンスは

\[g_m = \frac{\partial I_C}{\partial V_{BE}}\]

指数式を微分すると

\[g_m = \frac{I_C}{V_T}\]

重要な点:


2.3 ベース入力抵抗

\[r_\pi = \frac{\beta}{g_m}\]

2.4 出力抵抗(アーリー効果)

コレクタ電流の電圧依存性を含めると

\[I_C = I_S \exp\left(\frac{V_{BE}}{V_T}\right)\left(1 + \frac{V_{CE}}{V_A}\right)\]

したがって小信号出力抵抗は

\[r_o = \frac{V_A}{I_C}\]

3. MOSトランジスタとの比較

3.1 飽和領域電流(長チャネル近似)

\[I_D = \frac{1}{2}\mu C_{ox}\frac{W}{L}(V_{GS}-V_{TH})^2\]

3.2 相互コンダクタンス

\[g_m = \frac{\partial I_D}{\partial V_{GS}}\]

より

\[g_m = \mu C_{ox}\frac{W}{L}(V_{GS}-V_{TH})\]

または電流で書くと

\[g_m = \frac{2I_D}{V_{ov}}\]

ここで

\[V_{ov} = V_{GS} - V_{TH}\]

4. gm効率比較

BJT:

\[\frac{g_m}{I_C} = \frac{1}{V_T}\]

MOS:

\[\frac{g_m}{I_D} = \frac{2}{V_{ov}}\]

室温で

\[\frac{1}{V_T} \approx 38 \text{ V}^{-1}\]

一方MOSで (V_{ov}=200\text{ mV}) とすると

\[\frac{g_m}{I_D} = 10 \text{ V}^{-1}\]

したがって同じ電流ならBJTの方が大きな (g_m) を得やすい。


5. 出力抵抗比較

MOS(チャネル長変調):

\[r_o = \frac{1}{\lambda I_D}\]

BJT:

\[r_o = \frac{V_A}{I_C}\]

6. 設計思想の違い

BJT設計:

MOS設計:

7. MOSに対するBJTのメリット

7.1 gm効率が高い

BJT:

\[\frac{g_m}{I_C} = \frac{1}{V_T}\]

MOS:

\[\frac{g_m}{I_D} = \frac{2}{V_{ov}}\]

室温では

\[\frac{1}{V_T} \approx 38\ \text{V}^{-1}\]

MOSで (V_{ov}=200\text{ mV}) とすると

\[\frac{g_m}{I_D} = 10\ \text{V}^{-1}\]

同じ電流ならBJTの方が大きな (g_m)
→ 低電流・低電圧条件で有利


7.2 線形性が本質的に高い

小信号近似では

差動対・アンプの歪み設計が楽


7.3 パラメータが少ない

BJTの主要設計パラメータ:

MOSの主要設計パラメータ:

BJTは「電流だけ見ればよい」設計になりやすい


7.4 低雑音(特に低周波)

→ センサフロントエンド、低雑音アンプで有利


8. MOSに対するBJTのデメリット

8.1 入力抵抗が低い

BJT:

\[r_\pi = \frac{\beta}{g_m}\]

→ 入力に電流が流れる
→ 高インピーダンス信号源には不利

MOS:


8.2 静的電力が必須

→ 低消費電力デジタル用途では不利


8.3 集積回路でのスケーリング不利

→ 現代の主流プロセスはCMOS


8.4 温度依存性が強い

\[I_S \propto T^3 \exp\left(-\frac{E_g}{kT}\right)\]

→ (V_{BE})、(I_C) が温度で大きく変化
→ 補償回路が必須

(※逆にこれを利用するのがバンドギャップ回路)


9. 設計思想の違い

BJT設計:

MOS設計:


10. 結論

BJTを理解しているかどうかは、
MOSアナログ回路の「なぜそうなるか」を理解できるかどうかに直結する。


11. まとめ

アナログ設計では、
「どの物理量が支配的か」を理解することが本質である。